実店舗が通販売り上げを伸ばすための施策12選
通販業界は店舗をもたない企業が売上を伸ばしてきましたが、最近では実店舗のある企業が通販で売り上げを伸ばしています。有名なところでは、ユニクロ(2016年421億円の売り上げが2023年には1369億円)やニトリ(2016年120億円の売り上げが2024年には871億円)といった企業が売上を拡大させています。
実店舗のある企業の通販ビジネスのメリットは以下になります。
① 来店者をリスト化するので、新規獲得のための多額の広告投資が不要
② 来店時の接客でお客様と関係性ができるので、リピート客を育成しやすい
③ メルマガ会員やLINEのお友達登録を店舗内で案内できる
④ 商圏を広げることができる
来店客はリスト化することでお店の資産にすることができ、通販での売上アップにつなげることができます。店舗を増やしていくのは出店投資、人材の採用と教育、販売促進と大変ですが、店舗を軸にした通販ビジネスは低リスクでチャレンジできるのが魅力です。
このコラムでは実店舗を持つ企業が通販ビジネスで売り上げを伸ばすための施策をご紹介します。
1. 全社員で通販ビジネスに対する理解を深める
WEB上にオンラインショップを開設したら売上が上がる・・・そんな甘い現実はありません。店舗の販売がどう通販の売上に繋がっていくのか、その全体像と流れを全社員で理解を深める必要があります。そうしないと店舗の売上が通販に取られてしまうと誤解し、会社の取り組みに協力しないスタッフがでてきてしまいます。通販ビジネスのメリットを理解し、スタッフ同士が協力し合うことで売上アップを実現することができます。
2. 来店客のリスト化を始める
通販売り上げを増やす第1歩が来店客のリスト化です。来店客をリスト化することで、通販で売るためのDMやメールといった案内を出すことができます。店舗のない通販会社は新規客を獲得するために多額の広告費を使っています。
リスト化を行うためにはお客様に会員登録をしてもらう必要があります。登録用紙を用意し、会員化を促します。また、ポイントカードを活用している場合には、ポイントカードの特典利用時に個人情報を記載してもらうようにするとスムーズに進められます。
どうしても会員登録が嫌なお客様にはLINEのお友達登録を提案します。お客様は実際に通販で商品を購入するまでは個人情報をお店に伝えなくて済みますのでストレスはかからないはずです。リスト化の目的は案内を出すためであることを忘れずに施策に取り組んでください。
3. オンラインショップを用意する
オンラインショップを開設するためには、ショッピングカートの導入とホームページの製作が必要となります。
ショッピングカートは予算に応じて選択します。BASEやStoresといった月額費用が無料のもの、月額費用1~3万円だとフューチャーショップ、Shopify、メイクショップ、カラミーなどがあります。多少の機能の差はありますが、利用企業数の多いショッピングカートであれば必要な機能はおおよそカバーしています。
ホームページの制作時には、オンラインショップのコンセプト、品揃えを決め、制作会社に発注します。実店舗と一緒で、目的、方向性、こだわりを伝えないとイメージしているショップはできませんので、十分に考慮したうえで発注するようにしてください。
4. 情報発信環境を整える
まずはLINE、X(旧;Twitter)、Instagram、Facebookの4つに取り組みます。SNSに初めて取り組むというお店であればX(旧;Twitter)から始めることをお勧めいたします。手軽に始められますし、情報の拡散性が高いのが、その理由です。X(旧;Twitter)の次はLINEです。お店側が発信したい情報を直接送ることができることと、お客様が注文手段として使えるのがメリットです。慣れてきたらInstagram、Facebookと発信の手段を広げていきます。
すべてフォロワーやお友だちは来店客への告知によって集めていきます。まずは知り合いからスタートし、その知り合いの発信を見た人へと広がっていくことを期待します。
5. 受注体制を整える
オンラインショップを開設したらWEBでの受注がメインになりますが、電話・FAX・LINEでの注文も受けるようにするのが理想です。受注漏れを起こさないなら、Twitter、Instagram、Facebookを活用しても構いません。ただ、あまり注文できる手段を増やしてしまうと受注の確認にかなり気を取られますので、無理のない範囲に限定することも大切です。
6. 代金決済について
WEBサイトを活用する場合、代金決済はクレジットカード一択で良いです。決済において一番怖いのが未回収です。代引きの場合、もし受け取り拒否をされると商品代金が入らないうえに、往復の宅配便代もお店側の負担になります。後払いは、いたずら注文をされた場合に、商品代金は入らず、泣き寝入りになる場合が多いです。代引き、後払い共に商品自体も廃棄せざるを得ません。もともと常連の方、近所の企業の方の注文といった場合は融通をきかせるのは良いと思いますが、原則としてクレジットカード決済のみにするのが安全です。
WEBサイト以外の注文時には代引きか銀行振り込み(前払い)を活用することになります。ただ、両方ともお客様には手数料がかかりますので、送料にさらに負担が増えることになりますので、できるだけクレジット決済をできる環境を整える必要があります。
また、ネットプロテクションズが提供しているNP後払いというサービスがあります。
これは、後払い集金を代行してくれるサービスでお店側は未回収を防ぐことができます。ネットプロテクションズ以外にも幾つかの会社がサービスを提供しているので、利用する場合は比較検討することをお勧めします。
7. 配送体制を作る
お客様に商品を届ける際の箱、同梱資料、緩衝材などを用意すると共に、梱包方法を考えます。お客様は商品が届いて箱を開けた瞬間の印象から商品についての評価を始めます。お客様の印象に残る梱包方法や手書きのメッセージカードを添えるといった何気ない配慮がお客様の印象を良くします。
お客様は欲しいと思ったら1日でも早く届けてほしいというのが人情です。無理にタイトな設計をする必要はありませんが、可能な限り、最短でお届けできるような体制作りが大切です。
8. 同梱資料を用意する
商品と納品書だけお客様に送るだけではリピート注文にいたりません。同梱資料の出来がリピートにつながるかどうかの重要なポイントになります。
まず必須のツールは商品パンフレットです。商品のベネフィット・品質、売れ筋商品の紹介、会社の姿勢・こだわりなど伝えたいことを余すことなく表現していきます。お客様は店舗で接客を受けているとはいえ、すべてを暗記できるわけではないので、改めてパンフレットなどのツールで情報を伝えることで、お客様は商品理解が深まります。
他には、お客様の声や次回リピートを促す案内なども必要になってきます。商品の満足度は大前提ですが、同梱資料も同じくらい大切ですので、ぜひ自社のこだわりを表現してみてください。
9. キャンペーンを企画し、DM、メールで案内を行う
年に2~3回キャンペーンを企画し、お客様に案内を行います。メールでの案内は必須ですが、費用を惜しまずDMを送るのが効果的です。年始に1年間の販促スケジュールを策定し、しっかり準備したうえで案内をすることが大切です。
10. メール、LINEで定期的に情報発信を行う
キャンペーンがない時期にもメールやLINEを送って、お客様と関係性を強化することが大切です。お客様に知ってほしい商品、会社の考え方、店舗での取り組みなどを発信していきます。お客様は日常生活に忙しいので、メールやLINEを送って接触していかないとすぐにお店の存在を忘れられてしまいます。
11. スタッフ発案の施策を積極的に実行する
日頃、お客様と接しているスタッフが一番お客様の心に響く施策を考えることができます。常にスタッフから意見が出やすい環境を作り、実行していくことが大切です。事業の方向性を決めるのは経営者や事業責任者のトップダウンが重要ですが、お客様に向けた施策はスタッフの「やってみたい」「喜んでもらいたい」が原動力になります。
12. 動画での発信に力を入れる
来店し、接客を受けて商品を買う。このプロセスだけでお客様がお店や商品のことを深く知ることは非常に困難です。そこでインスタライブやYoutubeを活用し、情報発信をしていくことが大切です。
事例1 姫ラボ(島根県/玉造温泉)
この施策は費用対効果が見えないけど、本当に行う意味があるのかなと普段考えることはありませんか?特に丁寧なお客様対応は漢方薬と一緒で効き目はあるのですが、即効性はないので、なかなか継続できない会社が多いのが実態です。しかし、地道な取り組みは成果につながるということを証明している会社が島根県にあるのです。
島根県松江市にある玉造温泉にはその温泉水を使った化粧品を販売する「姫ラボ」というお店があります。玉造温泉は山陰地方では有名な人気の観光スポットです。一時期は観光客の減少に悩まされておりましたが、地元の皆様が町おこしのために様々な努力を行い、近年では観光客は年々増えてきました。玉造温泉は「美肌効果を謳うこと」「ターゲットは女性客に絞る」というコンセプトのもと、「美肌・姫神の湯 玉造温泉」として街づくりを行ってきました。
2010年からは「姫ラボ」ブランドで化粧品の販売をスタートしました。主力商品はオールインワンゲルと石鹸で合計19種類(2024年12月時点)の商品を販売しています。
毎月平均すると約2,000の観光客がそのお店を訪れ、商品を購入しますが、商品を気に入ったお客様は電話、FAX、ハガキ、インターネットでリピート購入をしています。
売上は年約3億円(2024年)でコロナ禍での観光客減少を乗り越え、着実な売上アップを実現しています。設立当初2名だった社員数は現在(2024年12月時点)では29名になり、地元の雇用創出に貢献しています。
姫ラボの最大の特長は丁寧なお客様対応にあります。店舗での丁寧な接客はもちろんですが、店舗のスタッフは化粧品製造会社に研修に行く等、商品知識の勉強に余念はありません。そして、通販のお客様にも丁寧な対応を心がけています。
商品購入者は手書きのメッセージを添え、自分達で作った消しゴムハンコを押します。受注から発送まで全ての作業を自社で行っており、商品やツールの梱包もスタッフが手分けして行っています。また、注文ガイド、手書きの会報誌、カレンダー等のツールもスタッフ自らが考えながら作成しています。
丁寧なお客様対応の評価は楽天のレビューで確認することができます。ショップのレビュー点数は4.9点以上(2024年11月末時点)でスタッフの応対、梱包、配送といったお客様対応に関するところは特に評価が非常に高く、丁寧な対応がお客様に喜ばれていることが確認できます。玉造温泉に行ったことのない方でこのレビューを信頼して初めて購入される方も毎月一定数おり、楽天での売上アップにも貢献しています。楽天のレビューを見ても手書きのメッセージや迅速な配送といったところを評価しているお客様が多いのが特長です。
通販で購入したお客様の声を店舗のスタッフとも共有しています。店舗での良い接客があって初めて通販でのリピートにつながります。そして、通販でのリピートがあるからこそ、店舗の運営資金にも余裕が出てきます。つまり、店舗があっての通販、通販があっての店舗なのです。
スタッフに通販経験者は1人もいません。スタッフは女性ばかりで年齢も20代~50代まで幅広くいて、各自が役割を精一杯果たしています。通販経験はなくても愚直にお客様に喜んでもらうためにはどうしたら良いかを考え、実行していっているのです。
売場のPOPから通販でお客様に送るツールまですべて社員が考え、形にしています。試行錯誤を繰り返しながら、どうしたらお客様にわかりやすく伝わるかを常に念頭においており、結果として独自性のある表現に繋がっています。
また、東京、大阪、広島等で催事があれば出店して商品の販売とPRを行っています。これも準備から販売まで全て自社のスタッフが行っております。催事では過去に来店したお客様や通販で購入しているお客様とも出会えるといった一般の通販会社にはない経験もしています。島根県で待つだけでなく自らも積極的にお客様と出会えるようにしているのです。
コロナ禍ではインスタライブやYoutubeでの発信に力を入れ、オンラインでのお客様との繋がりを作ることに成功しました。平常に戻った現在では、対面の催事、オンラインの取り組みと顧客接点を増やすことができました。
https://www.future-shop.jp/magazine/interview-live-commerce-hime-labo
数字の振り返りもしっかり行い社内で共有しています。リピート移行率、DMのレスポンス率、再購入した休眠客の属性等、定期的に見ることで着実にリピートしてくださるお客様の人数が増えていることを確認しています。丁寧なお客様対応や地道な取り組みも数字の成果につながることが確認できることで継続することができます。
ここまで見てきたようにお客様を想い、丁寧な対応をすることは結果として売上につながっていきます。一見、非効率に見える取り組みが結果としてお客様の心に響き、安定したリピートにつながっていきます。目先の数字を追うだけでなく、お客様が喜ぶことを愚直に行うことの大切さを姫ラボの取り組みが教えてくれています。
事例2 ハッピーフレンド(静岡県)
静岡駅から車で約25分、住宅街の一角に「自然食品・化粧品のお店ハッピーフレンド」は存在します。創業は2002年、多くのお客様に支えられ、1店舗で年間2億円以上の売上があります。
ハッピーフレンドの売場面積は約8坪、もともと書店だった小さなお店が売上を伸ばしている背景には通販があります。
毎月1回「ハッピー通信」というタイトルのDMを約3,500名のお客様に郵送しています。1冊64ページという力作で様々な商品案内から会社の考え方まで情報量が豊富で読み応えがあります。別冊も入りますので合計で100ページ近いボリュームになります。
送付対象は来店客をリスト化したものです。登録シートとポイントカードを活用し、お客様の氏名・住所などを収集しています。ちなみに、このお店のポイントカードはポイントがすぐに貯まる工夫をしており、リピート来店促進としても寄与しています。
通販で送る荷物には手書きのメッセージカードを同梱しています。「箱を開けた時にお客様が笑顔になるように」という意識のもと、一番上にカードを置くようにしています。丁寧でお客様想いの顧客対応については、有名な大手化粧品通販会社の方も感動して、自社社員に事例として紹介する場面もありました。
多額の広告投資をするわけではないので、飛躍的に売り上げが上がるわけではありません。しかし、年月を経るごとに着実にお客様は増え続け、そして、そのお客様との関係性は深まっていきます。関係性の深さからか、他県に引っ越したお客様から通販で注文が入るほどです。
VIP客(年間購入金額により算定)には誕生日にお花のプレゼントを毎年行っています。送料も含めると数千円のコストはかかるそうですが、これは多くの商品を買ってくださったお客様への感謝の気持ちとして継続して行っています。
お客様との関係性を大切にする姿勢は経営者の原体験から生まれました。創業1年目売り上げが100円の日がありました。開店した直後、賑わっていたお店は徐々に落ち着きを見せ始め、客数が次第に減っていきました。そんなある日、台風が影響した悪天候で来店客は皆無。閉店間際にスタッフが1人豆乳を買ったのが、その日の売上でした。この時に経営者の方は、まずはお店に来てくれるお客様1人1人を大切にしていこうと心に誓いました。その誓いは日々の接客、通販を始めた後の手書きのメッセージカードにつながっていくのです。
一番の売れ筋商品は自社オリジナル商品である「水姫ゲル」という化粧品。商品力の高さから安定した売り上げを作っています。そして健康食品が化粧品に次いで高い売上比率になっています。
年に2回商品がお得に買えるキャンペーンを行っています。一般的な通販会社と違って定期コースに誘導して売り上げを作るモデルではなく、お客様が買いたいタイミングにあわせて商品を提案するモデルです。長年お付き合いのあるVIP客の中には1回のキャンペーンで約50万円の買い物をする方もいます。お客様のお店、そして扱っている商品への信頼が厚いことが背景にあります。
働くスタッフも勤続年数が長く、働きやすい、楽しい職場がお店の雰囲気をよくしています。お客様だったのに、気づいたらスタッフになっていた方もいます。楽しいだけでなく、情報共有・商品知識の勉強も定期的に行い、お客様との接客にも生かしています。
地元に密着しながら店舗だけでなく、通販の売上も創出している実店舗通販の理想形ともいえるお店です。
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